おはようございます。
ライフオーガナイザーのさいとう きいです。
最高気温が15度を上回る日が続くと、そろそろ衣替えの季節。一見してすぐ傷みのわかる衣類なら、この機会に思いきって処分できるかもしれませんが、次のような場合はどうでしょうか?
- 子どもが成長して着られなくなった服(まだキレイなのに…)
- ライフスタイルが変わって着なくなった服(いつかまた着るかも?)
- うまくコーディネートできず、まったく着ていない服(新品同様!)
- 今後も着る予定はないけれど、高かった服(ボーナスで清水買いした!)
衣類に対する思い入れがあると、“捨てる”ハードルは一気に上がりますよね。
そんなとき、ライフオーガナイザーたちがよく利用するのが、「古着deワクチン」。着なくなった衣類を“人のために使う”仕組みです。
今回の連載「時間を生み出すヒト・モノ・コト」では、古着deワクチンの活動に従事する日本リユースシステムの鈴木詩織さん、高岡静子さん※、副島佳澄さんに、その仕組みについて伺います。
※高岡静子さんの「高」は旧字(髙)、「静」は青偏に争の旧字(爭)。
インタビュー・記事/さいとうきい
インタビュー/会田麻実子
写真撮影/白石規子(2、9枚目)
写真提供/日本リユースシステム(3〜8枚目)
■ 古着deワクチンって、どんなサービス?
古着deワクチンに取り組んでいるのは、「日本リユースシステム」と「リクルートマーケティングパートナーズ(赤すぐ・妊すぐ)」、「認定NPO法人 世界の子どもにワクチンを 日本委員会」の2社1団体です。
古着deワクチンとは、どのような仕組みなのでしょうか?
日本リユースシステム(鈴木さん):
「さまざまな理由で不要になった衣類を捨てたくない方、社会貢献に関心が高い方に向けたサービスで、今年で7年目になります。手ばなしたい衣類をお送りいただくと、お申し込み1口につき5人分のポリオワクチンが開発途上国の子どもたちのもとへ届けられるという仕組みです。お預かりした衣類は捨てるのではなく、主に開発途上国でリユースしています」。
社会貢献といっても、ワクチンの費用や衣類の輸送費などがかかりますよね? どのようにまかなっているのですか?
日本リユースシステム(鈴木さん):
「お申し込みの際、利用者の方に1,080円から2,160円のサービス利用料をご負担いただくことで、費用の一部をカバーしています。お預かりした衣類も、開発途上国へ無償で提供しているわけではありません。現地で販売することによって収益を得ています。というと、社会貢献なんだから無償で提供したほうがいいのでは?と思われることも多いのですが……」。
はい、そう思いました(笑)。利用者がサービス利用料を支払うなら、集めた衣類は善意として開発途上国の人たちに寄付してもいいですよね?
■ 古着を販売することで長期運営、雇用創出
日本リユースシステムが“あえて”無償で衣類を提供しない理由は何なのでしょうか?
日本リユースシステム(鈴木さん):
「ひとつは、このサービスをビジネスとして、長期的に運営するためです。どんなにすばらしい社会貢献であったとしても、企業としては、赤字では長く続けられません。もうひとつは、無償で物品を提供することが、必ずしも開発途上国の人々の暮らしをよくするわけではないと、私たちは考えているからです」。
日本リユースシステム(副島さん):
「もともと日本リユースシステムは、中古品や再生資源原料を32の開発途上国へ輸出するリユース業を行なう会社です。そのため、ラオスやミャンマー、カンボジア、ブータンといった国を訪れる機会がよくあります。現地に駐在しているスタッフもいるんですよ。私もそのひとりです(笑)」。
なんと副島さんは、現在カンボジアにご自宅があるのだとか。取材に伺った際はたまたま一時帰国中とのことでした。
日本リユースシステム(副島さん):
「無償でものを提供すれば、その瞬間、ものを必要としている人は助かります。けれども、自立へと繋がることはありませんよね。彼らに本当に必要なものは、無償の衣類ではなく、仕事の機会なのではないかと思います。だから私たちは、古着を安価で輸出販売することで、現地でのビジネスや雇用を促進しています」。
たしかに、働いて収入が得られれば、衣類だけでなく、住むところ、食べるものだって自分で手に入れられます。家族が病気になったら病院へ連れて行けるし、子どもを学校へ通わせることだってできます。おっしゃるとおり、働きたくても仕事がなければ、いつまでもボランティアに頼るしかありませんよね……。
では、どのようにして古着が現地の方々のビジネスや雇用に役立っているのでしょうか?
日本リユースシステム(高岡さん):
「お送りいただいた衣類は、国内の倉庫で一次選別を行ないます。シミ・汚れ・破損などがないかの確認です。その後、インドやマレーシアなどの国へ送って二次選別を行います。サイズ、色、形など、170分類以上に仕分けられるんですよ。そうして分類されたものが各国へ送られ、販売されることになります。
この過程で、選別業務、販売業務を担う雇用が生まれています。こういった仕事はマルチタスクが要求されるため、女性の方が向いているんです。結果として、現地の女性の雇用促進にとても役立っています」。
お話をお聞きしながら拝見したのは、日本リユースシステムのみなさんが撮影したという現地の写真。私たちが送った衣類が、必要とする人の手に渡って再利用され、雇用までをも生み出している……。“捨てる”ではなく“リユース”という選択の力強さを感じました。
■子どもの命を救うために企業ができること
といっても、日本リユースシステムはビジネスだけでこの活動を行なっているわけではありませんよね? 単なるビジネスであれば、不要になった衣類を集め、開発途上国で販売するだけでもいいように思います。そこにワクチンの寄付を加えようと考えたきっかけは何だったのでしょうか?
日本リユースシステム(鈴木さん):
「世界では1日に4,000人もの子どもたちが、5歳になる前に6大感染症(ポリオ、はしか、百日咳、結核、破傷風、ジフテリア)で命を落としています。開発途上国を訪れ、私たちも大勢の子どもたちが感染症で亡くなるのを目の当たりにしてきました。その大半は、ワクチンを接種していれば防げるものなんです。現地でビジネスを行う企業として、子どもたちの命を救うために何か少しでも役に立てないかと考えたことが、古着deワクチンというサービスの展開に繋がりました」。
はじめからワクチンを届けようと考えて活動をスタートしたのですか?
日本リユースシステム(高岡さん):
「実は違うんです。何か役に立ちたい!でも、どうしたらいいかわからない…と悩んでいたときに偶然、おつきあいのある企業が『世界の子どもにワクチンを 日本委員会』に寄付を行なっていると聞いたんです。それで、タイアップ協力させてくださいと、直接お願いに行きました」。
「世界の子どもにワクチンを 日本委員会」は、細川元首相夫人、細川佳代子氏が理事長を務める、認定NPO法人(所轄庁による厳しい基準をクリアしているNPO法人)。ユニセフと連携し、預かった寄付金をワクチンや関連機器に換え、現地の子どもたちに届ける活動を行なっているそうです。
日本リユースシステム(鈴木さん):
「といっても、古着deワクチンが軌道に乗るまでの2年間は赤字でした。サービスが売れても売れなくても、一定以上の寄付をするという前提で『世界の子どもにワクチンを 日本委員会』とタイアップ提携したからです」。
(こっそり赤字額を聞いて、編集チームは驚愕!)それでもやめなかったんですね?
日本リユースシステム(鈴木さん):
「やめませんでした。日本リユースシステムの企業理念は“三方よし”です。衣類を提供してくださる日本のお客様にとっても、衣類やワクチンを受け取る開発途上国のお客様や子どもたちにとっても、そして当社にとっても、どう考えても古着deワクチンは“三方よし”の仕組みだとしか思えなかったんです」。
軌道に乗り始めたのは3年目からなんですね。
日本リユースシステム(高岡さん):
「そのとおりです。口コミで少しずつ利用者が増えてゆき、一度利用した方がお友だちやご家族に声をかけて古着を集め、何度もリピートしてくださるようになったんです。最近では、多くのメディアでも取り上げられるようになりました」。
これまでに古着deワクチンを通して寄付したワクチンの数は約1,216,259人分、再利用した衣類の数は約10,862,850着にものぼるのだとか(2017年4月1日時点)。ビジネスという視点と「子どもの命を救いたい」という想いをバランスよく両立させたからこそ、ここまで続けてこられたんですね。
「時間を生み出すヒト・モノ・コト」後編では、これほど多くの人に活用される古着deワクチンの詳しい利用方法や、送ると喜ばれるものなどをご紹介する予定です! 楽しみにお待ちくださいね。
(後編へつづく)
【取材協力】
・日本リユースシステム
・古着deワクチン
【参考】
・古着deワクチン|赤すぐ
・認定NPO法人 世界の子どもにワクチンを 日本委員会
・認定制度について | 内閣府NPOホームページ