前回に引き続き、広島県在住のライフオーガナイザーで、片づけ収納ドットコムのエディターでもある秋山陽子さんにお話を伺います。
前編はこちら:
>>>「好きなこと」を選べないのは、自分を後回しにするクセが原因〜ライフオーガナイザーインタビュー(秋山陽子さん/前編)
インタビュアー/さいとう きい、会田麻実子
写真提供/秋山陽子
記事・編集/さいとう きい
編集チーム・さいとうきい(以下、編集・さいとう) ライフオーガナイズ、メンタルオーガナイズの知識を身につけたことで、ご自身の暮らしは変わりましたか?
秋山陽子さん(以下、敬称略) 「片づけは、暮らしを楽しむためにすること」だと気づきました。だから、「ちゃんとしなくていいんだ」「そのときのベスドでいいんだ」「理想通りじゃなくていいんだ」と、肩の力を抜いて考えられるようになりました。
ものだけでなく時間も俯瞰できるようになって、
40代は子育て
50代は暮らしを楽しむ
60代は社会に貢献できる
という、わたしなりの10年単位のテーマを決めることもできました。
秋山 ライフオーガナイザーの仕事を始めた40代は子育て真っ最中で、「子どもができることを増やす」のが、わたしにとって大事なことであり、楽しみでもあったんですね。自由に使える時間はほとんどありませんでしたが、「今、できないこと」が「この先もずっと、できないこと」じゃないとわかったら、「今は、できなくてもいいや」と、いい意味で諦められるようになりました。
編集チーム・会田麻実子(以下、編集・会田) 現在のテーマはいかがですか?
秋山 51歳になったので、これからは「暮らしを楽しむ」がわたしのテーマです。上の息子は大学生になって、おととしから一人暮らしをはじめました。下の娘は高校3年生。ここ2、3年で子どもから手が離れ、自分のために使える時間が増えたと感じます。
編集・会田 秋山さんにとって、「暮らしを楽しむ」とはどういうことですか?
秋山 わたしは「季節を遊ぶこと」が好きなんですね。特別なことではなく、たとえば四季折々の花を飾ったり、旬のものを食べたり、季節を感じるひとコマを写真に撮ったり。その時々の季節感を味わいながら暮らすのがとても好きだし、楽しいと感じます。
ライフオーガナイザーとして働きながら、これからは自分を楽しませるために、季節を遊ぶ時間も大事にしていきたいですね。
編集・さいとう ライフオーガナイザーとして、現在はどのようなお仕事をされていますか?
秋山 ライフオーガナイザーの入門講座、2級認定講座、1級認定講座の講師を務めるほか、市区町村や企業に招かれてセミナーを行うこともあります。片づけをサポートする現場のお仕事では、70代のシニアのお客様が多いです。お客様がご友人を紹介してくださるので、自然と同年代の方が増えました。
編集・会田 シニアの方ならではのお困り事はありますか?
秋山 衣替えや家電の入れ替えなど、季節が変わるたびに収納に関するお手伝いが必要になることが多いですね。そういう方には、年間のご契約でサポートしています。
片づけ以外でも細かなお困り事が多いのも、シニアの方の特徴かもしれません。たとえば、スマートフォンの使い方やWi-Fiの設定、宅配サービスの選び方、掃除の仕方などです。
お困り事が多岐に渡っていて、わたしひとりでは対応しきれないため、それぞれの分野に詳しい方をご紹介するようにしています。わたしの役目は情報のオーガナイズです。何か困ったことがあったら「まずは秋山さんに相談してみよう」と、暮らしのコンシェルジュのように思っていただけているようです。
秋山 でも最近は、お客様の層を少し変えていきたいと考えているんです。
編集・さいとう それはどうしてですか?
秋山 70代のお客様の片づけをサポートすると、みなさん必ずと言っていいほど「もうちょっと早く片づけておけばよかった」とおっしゃいます。「早くから片づけることの大切さを、若い人たちに伝えてあげて」とおっしゃる方も多いです。実際に、体力や気力が落ちて、最後まで片づけきれない方もたくさん見てきました。
子育てが終わってから65歳までの間に、いかに片づけ、いかに過ごすかで、高齢期の暮らし方は確実に変わります。だから今後は、子育て後の女性の第二の人生が「好きなこと」に満ちたものになるようサポートしていきたいと考えているんです。
編集・会田 自分の「好きなこと」がわからない方は、どうすればそれに気づけるでしょうか。
秋山 少し前から、体験型ワークショップ「暮らしマイスタイル」というオリジナルセミナーを開催しています。
このセミナーでは、こちらで用意した100冊の雑誌や写真集から、お客様ご自身に「好き」だと感じるものをセレクトしてコラージュをつくっていただくんですね。好きなものを集めたボードを客観的に見ることで、ご自身の潜在的な願望に気づくことができます。選んだものだけでなく、選ばなかったものにも理由があるんですよ。ご自身での気づきをサポートするため、分析にはメンタルオーガナイズのツールも取り入れています。
自分の願望に気づくことではじめて、自分にとって理想の暮らしがイメージできるようになります。理想の暮らしがイメージできれば、今の自分が家をどう片づければいいのかもわかります。願望を表現するということは、理想を実現するための第一歩でもあるんですね。
編集・さいとう 「暮らしマイスタイル」のワークショップでつくるのは、単なるインテリアコラージュではないということですね。
秋山 はい。わたしは「やりたい暮らし実現コラージュ」と呼んでいます(笑)
実はわたしは、亡くなった夫の荷物をずっと整理することができませんでした。夫が好きなものはなんだったのか、大事にしていたものはなんだったのか、まったく知らなかったから、文庫本一冊、手放すことができませんでした。なにも知らないと、残された人はどうしてあげればいいのかわかりません。知らないって、怖いです。
そのときに、夫だけでなく子ども達の好きなことも知らないということに気づいたんです。わたしが子どもをひとりの「人」としてみられるようになったのは、彼らの「大事なもの」「大切なもの」を知ってからですよ。それを知らなかった頃は、自分の価値観を押し付けていましたから……。
編集・会田 価値観を押し付けるとは、具体的にどういうことですか?
秋山 たとえば、「宿題しないんだったら、ごはん食べなくていい!」みたいな脅しの言葉を使って、子どもをコントロールしようとしていましたね(笑)
宿題をすることと、ごはんを食べることは、本来まったく関係のないことです。でも、親として「あなたのことが大切」、だから「将来、わたしが考える“よりよい人生”を歩んでほしい」、だから「きちんと宿題をしてほしい」と、自分の価値観と感情をごちゃ混ぜにしてしまって、こういう矛盾した言葉になっていたんですね。相手をコントロールしようとしていては、親子間といえども信頼関係は築けません。
編集・さいとう わたしもよく子どもに「●●しなかったら、■■しなくていい!」って、言ってます(笑)
秋山 もちろんわたしも、今でも「●●しなさい!」と言うことはありますよ(笑)。でも、その後「さっ、ごはん食べようか!」って、感情を切り替えて伝えられるようになったのは、わたしにとってとても大きな変化でした。
わたし達、ライフオーガナイザーは、「片づけでは、ひとつひとつのものを分けることが大事」だとお客様にお伝えしますよね。それは感情も同じことなんです。わたしはよく、片づけも感情も「混ぜるなキケン」と、お客様にお伝えしていますよ(笑)
編集・会田 相手の「好きなもの」や「大切なもの」を知るには、どうすればいいのでしょうか?
秋山 行動から推測するだけでなく、本人にアウトプットしてもらうことも大事です。たとえば、先ほどお伝えしたコラージュは、年少さん、年中さんくらいのお子さんでもできますよ。切り抜いてもいい本や雑誌、広告などを用意して、「好きなものを選んでね」と伝えると、大喜びで挑戦してくれると思います。
わたしはときどき、娘と「好きなこと出しゲーム」をしています。以前のわたしは「とっても好きなもの」を探して考え込んでしまい、なかなか言葉が出てきませんでした。でも、娘は「とっても好きなもの」だけでなく、「水色」とか「ピンク」とか、「ちょっと好きなもの」もパッパッと出てくるんですよ。その答えを聞いて、「そうか、ちょっと好きでも、好きだって言っていいんだ」と驚いて、感心しました。親子でもこうした感覚に違いがあるのは、おもしろいことだと感じます。
編集・さいとう 最後に、片づけや収納で悩んでいる方へのアドバイスをお願いします。
秋山 「理想の暮らしを追求したい」「家を片づけたい」と思ったとき、いきなりハードルの高いことから始めると、途中で心がくじけてしまうことがよくあります。最初は小さいところからスタートして、心を軽くする経験を重ねた方が長く続けられると思いますよ。
まずは自分が好きだと感じるものや大切だと思うものを知る。それを知ったら、親しい人達にも伝える。そんなところから、暮らしを見つめ直してみるのもいいのではないでしょうか。
ライフオーガナイザー 秋山陽子
ブログ:うちらしく暮らしやすく シンプルing