「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】


こんばんは。
ライフオーガナイザーのさいとう きいです。

小中学生のお子さんがいるご家庭で、最近よく「どこに収納すればいいのかわからない」とお聞きするようになったものがあります。学校支給のタブレットやノートパソコンです。

……かくいうわたし自身も、小学3年生になった子どもが持ち帰る端末をどう扱ったらよいものか、日々頭を悩ませています。

今回の連載、「時間を生み出すヒト・モノ・コト」では、学習塾「知窓学舎」の代表で、建築士とともに「探究心を育む住まい」について研究されている矢萩邦彦先生にお話を伺いました。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

インタビュー・記事/さいとう きい
写真撮影/会田 麻実子

■ 今の子ども達に求められる“学び”とは?

片づけ収納ドットコム・さいとうきい(以下、さいとう):
公立の小中学校で「新学習指導要領」がスタートしました。2023年度までに生徒1人につき1台のパソコン利用環境が整えられる予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で2年前倒しになり、すでに多くの自治体で端末の配布が完了しています。

子ども達の学びは、この先どのように変わっていくのでしょうか?

知窓学舎・矢萩邦彦先生(以下、矢萩先生):
「学習指導要領」は文部科学省が定めるカリキュラムの基準で、ほぼ10年ごとに改訂されています。

今回の改革がこれまでと大きく違うのは、文科省主導ではなく社会からの要請を受けた変革であるという点です。戦後はじめて“社会で使える学び”を目指して見直されたんです。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

さいとう:
“社会で使える学び”とは、たとえばパソコンの使い方やプログラミングの基本といったITスキルを身につけることでしょうか?

矢萩先生:
そういったスキル的なこともありますが、それだけではありません。

社会人経験のある人なら誰もが、実体験を通して「マニュアルがないと動けない人材では困る」と知っていますよね。それなのに、まだ多くの学校ではマニュアル通りの授業が行われ、マニュアル通りに正解が出せる子どもを育てている。

10年先どころか数年先さえ予測困難な時代の“社会で使える学び”とは、教科書にはのっていない“想定外”に対応できる力を身につけることです。

さいとう:
子ども達が大人になる頃には、人工知能「AI」の発展によって、なくなる職業もあると聞きます。

矢萩先生:
そうですね。マニュアルを覚えてその通りに作業するような仕事はなくなると考えられています。マニュアル化できるということは、プログラムにできるということなので、AIやロボットに任せることが可能なわけです。けれども、 “言語化できないこと”を実行したり“答えのない問い”について考えることは人間にしかできません。

これからは、一問一答型の教育よりも、人間だけがもつ「なんだろう?」と感じる性質を生かした、探究心を育む教育が大切です。1人1台端末は、疑問に感じたことを自発的に調べてみるための道具でもあるんですよ。

さいとう:
なるほど。うちは子どもが毎日タブレットを持ち帰り、毎日学校へ持っていくので、「忘れないように」とランドセルの中にしまっていたのですが……。辞書や地図帳などと同じように、すぐ手にとれる場所にあるほうがいいかもしれませんね。帰ったら、子どもと一緒に片づけ方を見直します!

■ 片づけは、究極の『探究的学びモデル』

矢萩先生:
実は、片づけというのは『探究的学びモデル』にとてもよくあてはまる行動です。

『探究的学びモデル』とは、

  1. 認知 よく見て情報を集め、整理・分析する
  2. 想像 仕組みや未来、人の気持ちなど、わからないことを考える
  3. 共有 自分の考えが相手に伝わるように表現・発表する
  4. 経験 今までの活動を見直して、次の探求の糧にする

を繰り返すことです。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】
出典:『探究的学びモデル』©KunihikoYAHAGI/教養の未来研究所

矢萩先生:
片づけでは、

  1. 認知 自分の部屋の状況を観察したり、知り合いの部屋や、漫画や映画に出てくる部屋で良いと思うものがないかなど、部屋の情報を集める
  2. 想像 どんなふうに収納にすると便利で、格好いいかなどを想像する
  3. 共有 実際に片づけて使ってみて、共用部なら感想をシェアする
  4. 経験 使いづらいなと感じたところを見直す

を繰り返しますよね。このサイクルこそがあらゆることを経験にして、成長する方法で、日々の生活のなかで実践できる探究的な学びだと言えます。

さいとう:
おぉ。親子で片づけに向き合うことが探究心を育むことにも繋がるとは、なんだかうれしいです(笑)

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

矢萩先生:
親子の対話も重要です。探究的な大人が身近にいれば、子どもは自然と探究的に育ちますから。

さいとう:
親子の対話というのは、子どもの「なんで?」「どうして?」に答えるということでしょうか? 最近、むずかしい質問をしてくるようになって、即座に答えられないことが多いのですが……。

矢萩先生:
正しく“解答”しなくても、もちろんできなくても(笑)、きちんと“応答”できればいいんですよ。

自分がわからないことをはぐらかして親の威厳を保つより、一緒に悩んで考える。学ぶことや成長することを親子で楽しめる。そんなフラットな関係を築くことが、結果的に“答えのない問い”について考える力を育みます。

さいとう:
それを聞いて安心しました(笑)

■ 頭の良い子を育てる「リビング学習」の課題

さいとう:
最近、子どもがタブレットを使うようになって、「リビング学習」のむずかしさを感じています。わたしが同じ場所で仕事をしているときは学習動画の賑やかな音が気になったり、子どもがオンライン授業を受けているときはインターホンや電話の音が邪魔したり……。

矢萩先生:
頭の良い子を育てると注目されるようになった「リビング学習」は、15年ほど前に登場した言葉です。当時と今では学び方が違うので、一概に「リビング学習=ベスト」とは言えない状況になっていると思います。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

さいとう:
子ども部屋など、個室のほうがいいのでしょうか?

矢萩先生:
リビング学習と個室のどちらがいいかということではなく、その子の発達段階に合わせた可変性があることが重要だと思います。

先生と生徒が双方向でやりとりするオンライン授業に関していうと、小学校低学年くらいまでは、親と切り離されると委縮して発言できない子どもが大勢います。安心安全な場所で学んでいるという意識をもちやすいリビングでの学習は、今でも小さい子にはふさわしいと思います。

一方で、高学年になると、塾や学校では積極的に発言できるのに、家庭からアクセスするオンライン授業では無口になる子が増えてきます。家の外での自分のキャラクターを親に見られるのが恥ずかしくなってくるんですね。そうなるとリビングより個室のほうが集中できるかもしれません。

さいとう:
思春期になったら、学習動画やインターホンの音よりも、子どもにとっては親の存在自体がうるさいんでしょうね……。

矢萩先生:
自分が子どもの頃を振り返ってみても、そうじゃなかったですか?(笑)

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

矢萩先生:
音以外で気になるのは、学習スペースの問題です。タブレットやノートパソコンを使いながら、その横に地図帳や辞書をおき、手前に教科書とノートを広げて学習しようとすると、最低でも奥行60センチ、幅85センチはほしい。それより小さなデスクでは画面との距離が近すぎて目への負担が大きいですし、ノートを広げられないから書く習慣が身につきづらいんですよ。

リビングの片隅に小さなデスクを置いて学習させているご家庭を見かけますが、多くの場合、スペースが足りていません。

さいとう:
リビングが狭い場合、そのサイズのデスクを置くとかなり窮屈になりそうですね。仮に置けたとしても、オンライン授業を受けるとき、背後の写り込みが気にならない場所となると……。

矢萩先生:
大きなデスクを置けないなら、ダイニングテーブルで学習してもいいんですよ。授業中の写り込みが気になるときは、そのときだけ配置を変えてもいい。

リビングか個室かという可変性だけでなく、リビングのなかでもフレキシブルな可変性があることが、子育て世代のこれからの住まいには必要だと思います。

さいとう:
“今”に合わせて、その都度見直していくことが大切なんですね。

■「探究心を育てる住まい」のつくり方

さいとう:
矢萩先生は「探究心を育む住まい」について研究されているとお聞きしました。どのようなものでしょうか?

矢萩先生:
もともと文化的な活動を牽引する企業や旅行会社、そして学校や教育機関などと連携して、日常と非日常を統合的にデザインすることで「より楽しく、より成長できる生活やキャリア」を作っていく研究をしていたんですよ。

そんななか、2020年に住宅設備機器・建材メーカーの「LIXIL」から依頼を受け“イマドキの教育に応える住まい”について考察したことで、人がもっとも長い時間を過ごす日常の舞台である住まいにも学びや成長の鍵があると考えるようになりました。

今までもそういう研究はありましたが、急速に変化していく予測不可能な現代に合っていないものが多かった。それで、時代に沿った“探究心を育む住まい”を研究し、デザインする『探究ホーム』プロジェクトを立ち上げました。

子どもだけでなく、そこに住む家族全員が探究的に暮らしをアップデートできる住まいが理想ですね。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

さいとう:
『探究ホーム』、ぜひ見てみたい! 先生は学習塾で2万人以上の生徒を見てこられたんですよね。

矢萩先生:
はい。その経験からも、「探究心を育むには●●すればいい」と万人向けのマニュアルをつくることはできないと思っています。子どもは一人ひとり興味をもつ対象や疑問に思う事柄が違いますし、言語化してしまうと一問一答型の学びと同じになるという矛盾も生じてしまうんですね。

けれども、環境を整えて親子の対話を促したり、想像力を高めたりといったことは可能なんじゃないかと考えています。

たとえば、「天井が高く、照明が明るい部屋」では議論が活発になって斬新なアイデアが生まれやすくなり、「天井が低く、照明が暗い部屋」では集中して問題を解いたり悩み事を相談したりしやすくなると言われています。

さいとう:
一般のご家庭で取り入れられそうなアイデアがあれば、教えていただけますか?

矢萩先生:
たとえば「本棚」ですね。ぼくは本の並べ方ひとつで、本棚自体が“冒険の対象”となると考えています。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

「知窓学舎」では3カ所に本棚を置いて、さまざまなジャンルの本を並べているんですが、あえて書店や図書館のような分類はしていません。気になる本があれば、誰でも自由に手にとっていいことになっているから、その都度、本を戻す場所が変わったりズレたりします。ぼく自身も、どこになにがあるかわからないときがある(笑)

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

矢萩先生:
本棚の奥行は35センチと、あえて少し深めにとって、本を前後に収納しています。そうすると、手前の本を抜き出したときにはじめて、奥側の本が目に飛び込んでくるんですよ。

全集やシリーズものが揃っていたり、50音順、大きさ別に並んでいたりすると、ある程度どこになにがあるか予想できますよね。それよりも、偶然の出会い、予想外の発見を楽しめる「セレンディピティ」な本棚を目指しているんです。ただ、完全にランダムなのではなくて、並びには何らかの関連性を持たせています。この本に興味を持つ子がこれを読んだら面白いだろうな、なんていう風に仕掛けるわけです。

さいとう:
本の収め方もさまざまで、平置きされていたり、渦状に積み上げられたりしていますね。本だけでなく、おもちゃやオブジェなどもディスプレイされています。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

矢萩先生:
必ずしも最初から本が大好きな子どもばかりではありませんから、少しでも「なんだろう?」と興味を持ってもらえるように仕込んでいます(笑)

さいとう:
こちらの本棚には、ボードゲームが収納されていますね。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

矢萩先生:
生徒達とボードゲームを楽しむこともあるんですよ。

アナログゲームのいいところは、鬼ごっこや缶けりなどと同じで、参加するメンバーが自分でルールを変えられるところです。たとえば、年齢の違う子ども達が一緒に遊ぶとき、一番小さい子にはハンデをつけてあげるなど、柔軟に対応できますよね。

デジタルゲームでは、ルールの決定権はコンピュータ側にあります。人間ではなくコンピュータが正しく、ルールは「変えられないもの」「従うもの」という前提で進めるため、工夫するチャンスが失われるのがデメリットです。

ご家族ではぜひアナログゲームを置いて、親子で対戦してほしいですね。『ディクシット』や『ガイスター』などは、勝敗が決まる要素が“知性”だけでなく“場の雰囲気”や“そのときの運”もあるので、大人と子どもでも結構いい勝負になっておもしろいですよ。

さいとう:
本棚の横には、植物が置かれているんですね。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

矢萩先生:
その手前のテーブルは自習スペースなんですよ。視界に入る緑の割合「緑視率」が10パーセント程度あると集中力が増すと言われているので、比率を計算して植物を置いています。造花でも、緑の小物などでも同じ効果が得られますよ。

さいとう:
授業を受けるスペースに置かれた椅子も、カラフルですね。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

矢萩先生:
緑・青は集中力を高める色、ピンクはディスカッションを盛り上げる色と言われています。色だけでなく目に入る情報の割合も重要で、目の前のことにフォーカスするには、多すぎる情報はむしろ邪魔になるんです。だから、子ども達が講師の話を聞くときは、本やゲームが目に入らない壁側を向いて座るようにしています。

さいとう:
今のレイアウトは、デスクが円形になっていますね。

矢萩先生:
テーブルを円形にすると、あきらかに子ども達の会話が弾み、アイデアが出やすくなります。授業中でも場面ごとにレイアウトを変えることがよくあるので、デスクは重すぎないもので、円形に配置しやすい台形のものを選びました。

さいとう:
少しお聞きしただけで、こんなにも多くの工夫が散りばめられていることに驚きました!

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】

矢萩先生:
生活のなかでは「時間割を合わせる」とか「歯を磨く」とか、考えなくても行動できるルーティンにしていいことはあると思います。けれども、探究心を育むときにはルーティンが邪魔になることもあります。

“学び”にはもっと選択肢があっていいし、間違うことにもっと柔軟になっていい。「日常をいかに非日常にできるか」「どうすれば同じ場所で冒険できるか」を意識しながら、常に変わっていくことができる。それが“探究心を育む住まい”には大切だと考えています。

「リビング学習がベスト」は思い込み?! これからの時代を生きる子どもの「探究心を育む住まい」とは?【時間を生み出すヒト・モノ・コト】
塾の片隅にはギターとキーボード、カメ(コロナ禍で一時帰省中)の水槽もありました

■ 編集後記:「リビング学習がベスト」は思い込み?

ライフオーガナイザーとしてお客さまとお話するとき、「暮らしは常に変化するもの。“今”に合わせて見直すことが大切です」とお伝えすることがよくあります。

……にも関わらず、今回の取材で、わたし自身が「子どもが小学生のうちはリビング学習で」と思考停止していたことに気づいてギクッ!としました。

教育が劇的に変化していくなか、これまでの常識が通じなくなるのは当然のことかもしれません。子どもの学習環境だけでなく、自分たち家族が学びを深める住まいそのものも、“今”に合わせてオーガナイズしていく必要があるんですね。

お話をお聞かせてくださった矢萩先生、ありがとうございました!

【取材協力】
知窓学舎


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